作家の技が息づく、ガラスの中の小さな自然
株式会社ホンダ テラリウム工房テラリウムをご存じですか?テラリウムとは、透明なガラス容器の中で植物や小さな動物を育てる手法。19世紀のヨーロッパで始まったとされており、現在ではインテリアアイテムとして楽しまれています。今回は、大阪最北端の町、能勢町で苔テラリウム製作を手掛けるホンダテラリウム工房の作家、岸田さんにその魅力と、作品づくりへのこだわりについて伺いました。
奥深い苔(コケ)テラリウムの世界
ホンダテラリウム工房が手がけるのは、容器に苔が入った苔テラリウム。苔という植物は、道端や岩場に生えていたりして、比較的身近なイメージがあるかもしれませんが、実はとっても繊細な植物。毎日のこまめな手入れが求められ、定期的に水やりをして容器内の湿度を70~80%に保つ必要があるそうです。
ホンダテラリウム工房の製作活動はアイデアの立案から、製造まで岸田さんが一人で担っています。繊細な苔を閉じ込めたひとつひとつのテラリウムには、作家の創意工夫と、卓越した技術が光ります。
特徴的な形のステンドグラスと、二層構造が印象的な作品。
作家の創意工夫と卓越した技術。テラリウムを彩る岩づくり
テラリウムを縁取る、岩。ごつごつした質感によってまるで本当の岩肌のように見えますが、実は発泡スチロールからできています。レンガのようなブロック状の発泡スチロールをカッターで切ったり、手で削ったりしながら、徐々に岩の形へと仕上げていきます。元々直方体だった発泡スチロールが、作家の手によって自然が宿るように、まるで魔法のように岩の形へと変化していきます。
岩を成形している様子。
緻密な作業によって製作されるステンドグラス技法の苔テラリウム
テラリウムをさらに印象付けるのは、容器部分の要の苔テラリウムです。シンプルな形のものもあれば、複雑な幾何学模様のものも。3Dを用いた図面の設計から岸田さんが自ら行っています。数ミリのずれが許されない、精密な作業。設計が終わると、ガラス専用のカッターで、ずれのないように慎重に切っていきます。
こちらが図面の一部。
この数字が少しでもずれたら全体の構成がうまくいかないそうです。
どこまでも繊細な世界ですね。
ホンダテラリウム工房、はじまりの物語
元々は作家としてではなく、趣味で長年テラリウムを作っていたという岸田さん。ある日雑貨店でテラリウムを見かけて、ぜひ手に入れたいと思ったものの、高価で手に入れるのを断念し、独学でテラリウムづくりをはじめました。
さまざまな植物を試して作るうちに、ある日苔を入れてみたところ、それがしっくりときて、それ以来苔のテラリウムを作るようになったそうです。
そんな岸田さんが能勢への移住を考え始めたのは、今から約5年前のことでした。自然の豊かな土地で暮らしたい、と考えていたところ、知人から大阪府能勢町をすすめられました。
その後、岸田さんは実際に能勢へ移住し、様々な縁を通じて巡り合ったのが、不動産事業を営む株式会社ホンダの本田社長です。岸田さんがテラリウムづくりをしていたことを社長に打ち明けたところ、あれよあれよという間に、なんと本田社長の元でテラリウムの会社を立ち上げることになり(!)、岸田さんは作家としてホンダテラリウム工房で働くことになりました。テラリウムが不思議な縁を運んできてくれたのですね。
こちらは能勢町ふるさと納税の返礼品として登録されています。実現に至るまで幾度もの試行錯誤を繰り返し、やっと形になったそうです。
愛着を持ち、日々の世話を欠かさずに。
岸田さんは次のように語ってくださいました。
「先述の通り、苔はとても繊細な植物です。購入したきり、部屋に放置するのではなく、作品に愛着を持ち、手厚い世話をしてくれる方に作品を託したいです」
一部のテラリウム作品はふるさと納税の返礼品となっており、この作品はすべて能勢町で採取された材料から製作されています。
魅力あふれる、テラリウムの世界。写真ではなく、その姿を間近に眺めることで、作家の緻密な技術や工夫を発見することができるはずです。
是非、工房にてその魅力を直接体験してみてください。
取材日:2025/01/23
文:西山明日香
写真:相澤由依