バイカーによるバイカーのための寺。全国各地から人が集う絶景寺
本瀧寺(ほんたきじ)能勢の観光スポット「野間の大ケヤキ」から府道4号「茨木能勢線」を野間峠に向かって登っていくと現れる、「総本山 本瀧寺」と書かれた黄色い看板。ここが、日本唯一の「バイク寺」として有名な本瀧寺です。
大阪の中心部からバイクで約1時間。大阪府内とは思えないほど、昔ながらの里山の風景が残る能勢は、バイカーにとって絶好のツーリングスポット。「バイク寺」のことを聞きつけたバイカーが、国内各地から訪れるそうです。
本瀧寺は、どのようにして全国的な注目を集めるようになったのでしょうか?執事長を務める野間 秀顕(のま しゅうけん)さんにお話を伺いました。
バイクで人を呼ぶ。「ハーレー和尚」のユニークなアイデア
駐車場に着くと、そこにはそり立つ石垣が。階段を登った先には、荘厳な雰囲気の境内が広がっています。本瀧寺はその名の通り、古くから人々が修行をするための「お滝(行場)」を守ってきた祈祷寺です。
敷地内を散策していると、バイクが描かれた絵馬や交通安全を祈願する守護鈴など、バイクにまつわるものがいくつもありました。
山の上にある本瀧寺は、まさに天空の寺
高さ約8メートルの「能勢の本滝」。古くから水行場として人々の精神練磨の場となってきた
──本瀧寺が「バイク寺」と呼ばれるようになったきっかけを教えてください。
私は、滋賀県の比叡山での修行後、大阪市天王寺区にある四天王寺での勤めを経て、本瀧寺に入職しました。四天王寺のある所は利便性の良い場所なので、何もしなくても通勤・通学の人が敷地内を通るが、この山奥では人に来てもらうのも一苦労。なんとかして皆さんに本瀧寺を訪れていただき、大好きな能勢に貢献できる策はないかと考えたところ、自身の趣味でもあるバイクで人を呼ぶことを考案しました。
──不便さを逆手に取った、ユニークなアイデアですね。具体的にはどのような取り組みをされているのですか?
若い頃、バイクが好きでよく乗っていたのですが、乗る機会が減ってしばらく離れていました。ところが40歳になったとき、周りの人の勧めもあって、再び乗り始め、いわゆる「リターンライダー」となりました。久しぶりに大型バイクに乗ると、それはもう恐くて(笑)。そんな中で感じたのは、ライダーの皆さんにはとにかく安全第一でツーリングを楽しんでほしいということでした。和尚として、交通安全の普及に力を入れなければならないと、バイカーが愛車と一緒に受ける御祈祷を行ったり、大阪府警察とともにバイクのパレードランを行うなどしています。
そうした取り組みをしていることもあって、バイク専門雑誌雑誌でコラムの連載を始め、好きな車種の名から「ハーレー和尚」と呼ばれるようになりました。
バイク専門誌「BikeJIN」とのコラボ絵馬
バイカーの憩いの場を作りたい!元◯◯を改装して誕生した絶景カフェ
バイカーに向けた独創的な取り組みを行う本瀧寺ですが、「バイク寺」として一躍有名となるきっかけとなった人気のスポットがあります。
──はじめは関西圏のバイカーが中心だったのが、今では全国から人が集まるようになったそうですね。
これまで交通安全にまつわるイベントの企画などを続けてきましたが、賑わうのはイベントの時だけ。ある時、ここに休憩や食事ができる場所を作ってバイカーの憩いの場にすれば、日常的に訪れてもらえるようになるのではと考えついたのです。ここは山の上にあって見晴らしがとても良いので、能勢の景色が一望できる場所にテーブルと椅子を置いて、2016年から「ほんたき山のカフェ」としてドリンクを提供しはじめました。その後、2022年にリニューアルし、「ほんたき寺巣(テラス)」として薬膳カレーやスイーツを提供するようになりました。ここは元々、掃除用具入れの倉庫と物干しスペースだったんですよ(笑)。運が良ければ、雲海が見られることもありますよ。
──全国各地から来られる方々は、どうやって本瀧寺のことを知るのでしょう?
数年前に、私のSNSでの発信からこのお寺カフェの存在を知ったインフルエンサーが、ここを訪れてレビューをシェアしてくれました。そうして情報が広まって人が人を呼び、全国各地から人が訪れるようになりました。長い時には、2時間待ちになるほどです。
能勢の景色が一望できるカフェ「ほんたき寺巣」。カップには、雲海をモチーフにしたこだわりのロゴマークが入っている
春の能勢はツーリングに最適!交通安全祈願に立ち寄って
──これから春を迎えますが、気候の良いシーズンになると、参拝者の方も増えるのでしょうか。
そうですね。寒い冬を乗り越え、暖かくなる時期には多くの参拝者の方が訪れます。ゴールデンウィーク頃の能勢でのツーリングは最高ですよ。ここに来た方は、「景色が綺麗」「大阪にこんな場所があったんだ」などとおっしゃっています。能勢のことを知らない方もぜひ来ていただき、ここから目下に広がる景色を眺めて、能勢の魅力を感じてほしいです。
能勢といえば秋の栗のイメージが強いですが、四季折々の風景の良さがあります。季節を変えて訪れると、また違った能勢の一面を楽しめますよ。
カフェの横には、特注で制作したというヘルメットを被ったお地蔵様が祀られている
交通安全祈願ができて、お腹も満たせる本瀧寺は、まさにライダーの聖地。野間さんは、時間があれば境内を周り、バイカーとの交流を楽しんでおられるのだとか。
多くのバイカーから愛され、進化を続ける本瀧寺。今後の動きにも、目が離せません。
取材日:2025/1/20
文:西楽 結
写真:名木田絢子